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最高裁判所第三小法廷 平成6年(行ツ)62号 判決 1998年9月08日

上告人

宮崎邦彦(X)

右訴訟代理人弁護士

太田寛

小関敏光

角谷晴重

朴憲洙

被上告人

名古屋市人事委員会(Y)

右代表者委員長

越原一郎

右訴訟代理人弁護士

冨島照男

宮澤俊夫

小川淳

磯貝浩之

金田高志

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人太田寛、同小関敏光、同角谷晴重、同朴憲洙の上告理由について

国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法八条、三条三項、一〇条の規定は、公立の義務教育諸学校等の教育職員については、正規の勤務時間を超えて勤務した場合においてもこれに対して手当を支給しないものとすることを定めているというべきであり、このことに一切例外が認められないかどうかはともかくとして、原審の適法に確定した事実関係の下においては、本件措置要求に係る時間外勤務に対しては手当を支給する余地がなく、被上告人には右要求につき措置を執る権限がないとした原審の判断は、是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に立って原審の右判断における法令の解釈適用の誤りをいうものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 園部逸夫 千種秀夫 尾崎行信 元原利文)

【上告理由】

一 上告人は、昭和六二年三月二六日、地方公務員法第四六条に基づき名古屋市立志賀中学校の教諭として昭和六一年四月一日から昭和六二年三月二六日までの間に行わざるを得なかった超過勤務に対してこれに見合う賃金を支払うこと等を内容とする措置要求をなし、被上告人は右措置要求を取り上げることができないとの判定をなした。

二 右上告人の措置要求のうち、昭和六一年四月一日から昭和六二年三月二六日までの間に行わざるを得なかった超過勤務に対してこれに見合う賃金を支払うことを内容とする措置要求(以下、本件措置要求とする)について、原判決は、愛知県の義務教育諸学校の教育職員の給与等に関する特別措置条例(以下、給特条例とする)は、国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下、給特法という)の規定を受けて、その第七条において、教育職員に対して時間外勤務を命ずることができる場合を生徒の実習に関する業務等四項目の業務に限定する一方、第三条において、教育職員に教職調整額を支給することとして、職員の給与に関する条例第一五条の適用を排除し時間外手当は支給しないとしており、右給特法・条例が改正されないかぎり、被上告人及びその他地方公共団体のいかなる機関も時間外勤務について措置をする権限を有していないから、本件措置要求は措置要求の対象としての要件を欠くとの被上告人の主張を是認し、被上告人の右判定は適法と判断している。

しかし、原判決の右判断は法令の解釈を誤ったものである。

三 給特法が制定される以前については、地方公務員である公立学校教職員に対しても労働基準法第三七条の適用が認められ、正規の勤務時間外に行われた職員会議に出席して時間外勤務を行った職員に対して時間外勤務手当の支給が認められた(最高裁昭和四七年四月六日判決・民集二六巻三号三九七頁)。

給特法は、第三条において義務教育諸学校等の教育職員に対して俸給月額の一〇〇分の四に相当する額の教職調整額を支給する旨を定め、第七条において右教育職員を正規の勤務時間をこえて勤務させる場合を文部大臣と人事院と協議して定める場合に限るとし、かつ、この場合、教育職員の健康と福祉を害することとならないよう勤務の実情について十分な配慮がなされなければならないと限定したうえで、第一〇条において公立の義務教育諸学校等の教育職員について労働基準法第三七条の適用を除外している。

右規定に基づき文部省は、訓令「教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合に関する規定」において、国立義務教育諸学校等の教職員に対して時間外勤務を命ずる場合を、<1> 生徒の実習に関する業務、<2> 学校行事に関する業務、<3> 学生の教育実習の指導に関する業務、<4> 教職員会議に関する業務、<5> 非常災害等やむを得ない場合に必要な業務 に従事する場合で臨時または緊急にやむを得ない必要があるときに限ることを定めている。

給特条例についても、給特法と同様に教職調整額を支給する旨を定めるとともに、第七条において、正規の勤務時間の割振りを適正に行い原則として時間外勤務を命じないとし、例外として時間外勤務を命ずる場合を、<1> 生徒の実習に関する業務、<2> 学校行事に関する業務、<3> 教職員会議に関する業務、<4> 非常災害等やむを得ない場合に必要な業務 という四業務を具体的に特定して掲げたうえで、かつ、臨時または緊急にやむを得ない必要があるときに限ることを定めている。

四1 給特法制定前の昭和四一年に文部省により超過勤務の実態調査がなされたが、それによれば一週間当たり平均して小学校では二時間三〇分、中学校では三時間五六分、全日制高校では三時間三〇分の超過勤務が行われていた。

このような超過勤務の実態を是正するために昭和三〇年代後半から教員が各県人事委員会や裁判所に超過勤務手当支払を求める措置要求や訴訟が多数提起され、前記最高裁判決もその到達点の一つである。

その結果給特法が制定されることになったのであり、同法制定前に中央労働基準審議会は、「文部省が人事院と協議して超過勤務を命じうる場合を定めるときは、命じうる職務の内容及びその限度について関係労働者の意向が反映されるよう適切な措置がとられるよう努められたい」旨の建議をしている。

右建議にそって文部省と日教組との交渉が行われ、前記文部省訓令及び通達「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の施行について」が制定された。右通達においては、時間外勤務を命ずることのできる業務の具体的内容として、実習とは、校外の工場、施設(養殖場を含む)、船舶を利用した実習及び農林、畜産に関する臨時の実習を指す、学校行事とは、学芸的行事、体育的行事および修学旅行的行事を指す、学生の教育実習の指導とは、附属学校における学生の教育実習の指導を指す、非常災害などやむを得ない場合に必要な業務とは、非常災害の場合に必要な業務のほか、児童生徒の負傷疾病等人命に関わる場合における必要な業務及び非行防止に関する児童・生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする業務をさす、というように具体的かつ明確に限定が行われた。

そして公立の義務教育諸学校等の教育職員に関する条例の定めについても訓令、通達の趣旨により運用するよう留意することが定められた。

2 右経緯及び条文の配置からしても、給特法の立法目的は、教職員の時間外勤務の解消であり、それによって教員の過大な時間外勤務を解消し、教職員の創造的な職務の実現を図ることは明らかである。ただし、教職員の職務から時間外勤務を完全には排除することができないため、時間外勤務を行わせる場合を非常に厳格に限定したうえで、この適法に認められる時間外勤務については教職調整額の支給により包括的に俸給支払の評価をしたものである。

3 労働基準法第一条は、第一項において、労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならないとし、第二項において、この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るよう努めなければならないと定めている。労働時間短縮の動きは戦後から一貫した流れであり、その実現のために法定労働時間、時間外勤務の規制の規定は最も重要な部分をなしている。右規定によって労働基準法は労働者の保護を強く図ろうとしているのであるから、その適用を排除する場合には、その排除を正当化するだけの十分な理由がなければならない。

給特法の場合は、前記訓令から明らかなように教員の時間外勤務は原則として発生しないように配慮するとともに、限定的な五つの業務についてだけ、しかも臨時かつやむを得ないという場合という二重の限定をした場合にのみ時間外勤務を命ずることを認め、その範囲内の時間外勤務については教職調整額が支給される代わりに労働基準法第三十七条の規定の適用排除し、割増賃金の支払を要しないと定めたのである。このような前提のもとでのみ労働基準法三七条の適用排除は正当化されると考えられる。

4 したがって、給特法において前記基準を満たさない時間外勤務が命じられたときには、これは給特法の本来予定していない場合となり、当然原則規定である労働基準法の適用がなされ、このような時間外勤務については割増賃金支払の必要があるのである。

仮にそうでないとすると、この時間外勤務の業務については教職調整額の対象とはなっていないし、本来の俸給の支払対象ともなっていないのであるから、教職員は無定量に無債の労働を強いられることになる。

給特法が前記時間外勤務の限定をした趣旨を考慮すれば右結論が妥当ではないことは明白である。

5 給特条例は、給特法に基づいて制定されているのであるから同条例の解釈についても給特法と同様に解釈すべきである。

給特条例についても教職員の時間外勤務を原則としては命ぜず、時間外勤務を命ずることが出来る場合を二重に限定したうえで、その時間外勤務に対する包括的な補償として調整額を支払うという前提のもとで職員の給与に関する条例第一五条の適用を排除し時間外手当は支給しないと定められているにすぎない。

したがって同条例についても、条例で認められた時間外勤務が認められている場合以外に時間外勤務を命ぜられたときには、この時間外勤務にかかる業務については職員の給与に関する条例一五条の適用の排除は適用させず、原則通り時間外勤務手当の支給を要することになる。

6 以上の点からすれば原判決には法令の解釈を誤り、その結果上告人の請求を棄却したものであるから破棄を免れない。

五1 第一審判決は、給特法及び条例の解釈について、概ね左記の通り判示した。

「給特法及び給特条例の立法趣旨は、教育が、教師と児童生徒との間の直接の人格的接触を通じて、児童生徒達の人格の発展と完成を図るという本質的要請をもつものであることから、教師の仕事は、その重要性とともに時間とか目に見える結果などによっては計測できないという性質をもつことに加え、教育という重要な職務に携わる教師としての自発性、想像性に基づき遂行されなければならない部分が少なくないこと、勤務の形態も、夏休みその他の長期の学校外における研修期間の存在など、一般職員に比べて極めて特殊な勤務形態が認められていること、また、勤務の内容も勤務時間内の授業活動のように教師の本来の職務であることの明らかなもののほかに、自宅におけるテスト等の採点、教材の検討、準備などといった仕事の内容自体は教師本来の職務の遂行であることは比較的はっきりしているものの、時間管理の難しさという点で特殊性のあるものから、職員会議、各種教育研惨会への出席等の本来の職務に付随する業務と認められるべきもの、あるいは一般に学校で行われているクラブ活動の指導、校外補導などのように本来の職務か否かが必ずしもはっきりしないもの、あるいはまた、PTA活動、生徒、父母からの相談等に応対する行為などのように、広義では教育活動といえるものの、直ちには業務ないし職務行為とはいい難いものまで千差万別であること、これに対応して、職務の遂行にあたり、教師の自覚、自発的意思あるいは自由な意思によることに多くを期待されているものから、教師の自覚、自発的意思によることが望ましいことに代わりないが、そのような自発的、自由な意思といったものから離れて、校長等からの職務命令により義務としてなされなければならないものまで、種々異なった性格を有するものがあり、結局、教師の仕事は、どこからどこまでが本来の業務ないし職務であるのか、拘束されるべき時間ないし勤務なのか、あるいはそれが単に教師の自発的、自由意思に基づいて行われているのか、それとも業務ないし職務としてなされているのかを明確に割り切ることが困難であるという特殊性を有していること、このような教育という職務の特性に鑑み、給特法及び給特条例は、教職員の職務の重要性、特殊性、勤務の実態に対し、評価を加え、給与の上で優遇措置を講ずるとともに、これまで正規の勤務時間外に勤務した場合の取扱いが必ずしも明確でなかった事情を踏まえ、勤務時間の管理の面でもより実態に適した合理的なものにしようとの趣旨で、時間外勤務に対する割増賃金に関する労基法三七条、給与法、給与条例の各規定の適用を排除し、これに対することにしたものと解される。

したがって、給特法及び給特条例の立法者が右の代償措置を講ずることによって時間外勤務を含めた教職員の実際に行っている勤務全体を包括的に評価し、事由のいかんを問わず時間外勤務手当等を支給しないこととする意思であったことは否定できない」ところである。

「しかし、教職調整額の支給によって現実に行われている時間外勤務等がすべて包括的に評価されていることを前提とするならば、そもそも給特条例七条の定めるように時間外勤務を命じ得る場合を四項目に限定列挙する必要はないはずであるし、前記のとおり、給特法及び給特条例の立法に伴って判定、追加された特殊勤務手当に関する人事院規則、教員特殊業務手当に関する人事委員会規則は、右限定列挙項目中「学校行事に関する業務」及び「非常災害等やむを得ない場合に必要な業務」の二項目について特に教員特殊業務手当の対象とし、また、「人事委員会が定める対外運動競技等において児童又は生徒を引率して行う指導業務で、泊を伴うもの又は勤務を要しない日、指定週休日若しくは休日に行うもの」「学校の管理下において行われる部活動(正規の教育過程としてのクラブ活動に準ずる活動をいう。)における児童又は生徒に対する指導業務で勤務を要しない日又は土曜日若しくはこれに相当する日に行うもの」といった限定四項目以外の事項について、休日、時間外の業務に従事する場合のあることを予定した規定を置き、これに対しても教職調整額の支給に加えて更に特殊業務手当を支給すべきものとしているが、これは限定四項目を含めた教職員の時間外勤務等は教職調整額の支給によって十分に評価されているという前提と矛盾するといわなければならない。

そのうえ、教職員の職務の特殊性、勤務の実態、内容は千差万別であって一義的に確定することは困難であり、敢えて確定することも望ましいものではないことは前記のとおりであるから、教職員の職務の再評価といっても果たしてどの段階まで評価したものかを確定することは容易ではないし、また、こうしたすべての事情を評価し尽くしたとみるのも必ずしも相当ではない。なぜなら、教職調整額を支給することの趣旨は、単に職務の再評価ということのほかに教職員の教育活動に対する考慮を含め給与等の勤務条件そのものの改善を図ることにもあったという意味を軽視することはできないし、一般的に、労基法三七条は労働者の労働条件の最低の基準を定めたとされる労基法の中でも、これに違反した使用者に対して付加金の支払を命じ、あるいは刑罰を課すなどして強く労働者の保護を図っている重要な規定であるから、その適用を排除するにあたっては十分慎重でなければならないからである。このことは、給特法制定過程においても、右の見地から中央労働基準審議会での審議を経、更に前記のような教職員の職務の重要性、特殊性、教育活動の実態に対しても十分配慮検討を加えたうえで前記のとおりの時間外勤務を命じ得る範囲等についての制限規定が設けられたものであること、また、時間外勤務等を命ずるにあたっても公務員の健康及び福祉を害しないように考慮しなければならない旨を規定し、前記のとおり教員特殊業務手当の制度を設け、あるいは教職調整額の支給方法等について規定した人事院規則九―五七及び給特条例四条、五条が、もともと時間外勤務手当等の支給を受けられない教職員に対しても、教職調整額を給与に準じて取り扱うこととしたこととの均衡を図る趣旨で、それぞれの給料表月額に人事委員会規則で定める額を加えた額をもって給料月額とする措置を講じていることからも認められるところである。

以上のような給特法及び給特条例の立法の趣旨、経緯、文言に照らすと、給特条例三条一項所定の教職調整額の支給は、前記のような特殊性をもった教職員のすべての教育活動を業務ないし職務としたうえで、これに対する必要にして十分な代償措置(対価)としてなされたものと認めるには困難が伴うところである。これを給特条例に即していえば、給特条例七条を単なる訓示的規定と解し、これに違反した職務命令に従って教職員が現実に教育活動に従事した場合に、そのような職務命令に従って教職員が時間外勤務等をするに至った経緯、従事した教育活動の内容あるいは勤務の実情等について何等の顧慮を払うことなく、教職調整額が支払われているとの理由で、時間外勤務手当等が一切支給されないと解することは、前述した給特法及び給特条例の立法趣旨に必ずしも合致するものではない」。

「そこで、給特条例七条に限定的に列挙された事項を越えて職務命令が発せられ、教職員が当該職務に従事した場合について、給特条例三条によって教職員の時間外勤務手当等に関する給与条例の規定の適用が当然に排除されるということはできず、そのような時間外勤務等が命ぜられるに至った経緯、従事した職務の内容、勤務の実情等に照らして、それが当該教職員の自由意思をきわめて強く拘束するような形態でなされ、しかもそのような勤務が常態化しているなど、このような時間外勤務等の実情を超えて労働することが必要となる場合に…当該業務に通常必要とされる時間労働したものとみなす」という趣旨については、通常必要労働時間の算定は使用者に課せられ、これは適正に推定されるべきであり、労働者は、反証を提出して賃金請求または割増賃金請求をなしうると解されている(東京大学労働法研究会著 注釈労働時間法 五三七頁)。

また、裁量労働についてもみなし制度が設けられているが、これは労使協定により決定される必要があり、しかも有効期限の定めがある。

事業場外労働、裁量労働のいずれの場合も休憩、時間外・休日労働、深夜業の労働基準法の規定は除外されるものではないとされている。

3 教職員の労働を前記第一審の判決のように特殊性をもつものと理解すべきものかについては問題点も多い。教職員の勤務については、事業場外労働のように使用者が教職員の勤務の実体を把握できないものではない。また、前記裁量労働のように職務執行について時間の割り振り等を含め一教職員において裁量権があるものでもない。

また、右みなし制度にあっては、通常必要労働時間の規定を設けることにより労働者が実際に行った勤務の評価を主張することを認め、また、みなし労働時間の時間数の決定を労使間に決定させることにより、また、協定の有効期間を設け、見直しを行うことにより勤務の実情を反映出来るように配慮している。

更に、みなし制度の趣旨と時間外勤務を原則として命じないこととし、限定的に時間外勤務を命ずることができるとして時間外勤務の限定をしている趣旨とは矛盾もしている。

右のような点を看過して教職員の職務について、一般の公務員の勤務との差のみ指摘して教職員の職務の特殊性から「給特法及び給特条例の立法者が右の代償措置を講ずることによって時間外勤務を含めた教職員の実際に行っている勤務全体を包括的に評価し、事由のいかんを問わず時間外勤務手当等を支給しないこととする意思であったことは否定できない」と解釈することは極めて危険である。

4 しかしながら百歩を譲って、給特法及び給特条例の立法者が右の代償措置を講ずることによって時間外勤務を含めた教職員の実際に行っている勤務全体を包括的に評価し、事由のいかんを問わず時間外勤務手当等を支給しないこととする意思であったとしても、時間外勤務が原則と命じないとする意思も立法者の意思であったことも事実であり、違法な時間外勤務が命じられた時にも労働基準法第三七条等の適用が一切排除されるということは憲法第二七条及び労働基準法第一条、第三七条の趣旨に反し、許されざるものである。

第一審判決のような限定を付する点については問題があるが、少なくとも給特条例七条に限定的に列挙された事項を越えて職務命令が発せられ、教職員が当該職務に従事した場合について、給特条例三条によって教職員の時間外勤務手当等に関する給与条例の規定の適用が当然に排除されるということはできず、当該教職員が当該労働に対する対価として本来取得すべき給与請求権は当然に認められ、時間外勤務手当等の請求を受けた給与負担者は、当該職務命令が法令に違反し無効であることを理由にその支払を拒むことは信義公平の原則に照らし許されないと解するほかない。

5 右解釈によっても結局原判決は法令の解釈を誤り、その結果上告人の請求を棄却したものであるから破棄を免れない。

以上

参照条文

◆義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置条例(昭和四六年一二月二四日愛知県条例第五五号)

(趣旨)

第一条 この条例は、地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第二十四条第六項、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和三十一年法律第百六十二号)第四十二条並びに国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(昭和四十六年法律第七十七号)第八条及び第十一条の規定に基づき、義務教育諸学校等の教育職員(市町村立の義務教育諸学校等の教育職員のうち市町村立学校職員給与負担法(昭和二十三年法律第百三十五号)第一条及び第二条に規定する者を含む。以下同じ。)の給与その他の勤務条件について特例を定めるものとする。

(定義)

第二条 この条例において、「義務教育諸学校等」とは、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)に規定する小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾(ろう)学校、養護学校又は幼稚園をいう。

2 この条例において、「教育職員」とは、校長(園長を含む。)、教頭、教諭、養護教諭、助教諭、養護助教諭、講師(常時勤務の者に限る。)、実習助手及び寮母をいう。

(義務教育諸学校等の教育職員の教職調整額の支給等)

第三条 義務教育諸学校等の教育職員(職員の給与に関する条例(昭和四十二年愛知県条例第三号。以下「給与条例」という。)別表第五の教育職給料表(二)又は別表第六の教育職給料表(三)の適用を受ける者に限る。第三項及び第七条において同じ。)のうちその属する職務の級がこれらの給料表の一級又は二級である者には、その者の給料月額の百分の四に相当する額の教職調整額を支給する。

2 前項の教職調整額の支給に関し必要な事項は、人事委員会規則で定める。

3 義務教育諸学校等の教育職員(管理職手当を受ける者を除く。第七条において同じ。)については、給与条例第十五条及び第十八条の規定は、適用しない。

(教職調整額を給料とみなして適用する条例等)

第四条 前条第一項の教職調整額の支給を受ける者に係る次に掲げる条例の規定及びこれらに基づく人事委員会規則等の規定の適用については、同項の教職調整額は、給料とみなす。

一 公立学校職員の退職手当に関する条例(昭和二十九年愛知県条例第二十七号)

二 愛知県職員の共済制度に関する条例(昭和二十九年愛知県条例第三十四号)

三 給与条例(第九条の二、第九条の四、第十四条、第十四条の二、第二十条、第二十一条、第二十二条、第二十三条、第二十四条、第三十条及び附則第七項の規定に限る。)

四 外国の地方公共団体の機関等に派遣される職員の処遇等に関する条例(昭和六十三年愛知県条例第二号)

(教職調整額の支給を受けない教育職員の給料月額の特例)

第五条 義務教育諸学校等の教育職員のうちその属する職務の級が給与条例別表第五の教育職給料表(二)又は別表第六の教育職給料表(三)の三級である者に対するこれらの給料表の適用については、これらの給料表に掲げる給料月額は、いずれも、その額に人事委員会規則で定める額をそれぞれ加えた額とする。

2 前項の人事委員会親則で定める額は、その属する職務の級が同項に規定する給料表の二級である者がこれらの給料表の三級である者となつた場合に受ける給料月額がそのなつた前に受けていた給料月額(教職調整額を含む。)を下ることがないようにするため、これらの給料表の三級の給料月額とこれに対応する二級の給料月額に百分の百四を乗じて得た額との差額を基準として定めるものとする。

(人事委員会の勧告)

第六条 前三条の規定の改正に関する事項は、人事委員会の勧告に係る事項に含まれるものとする。

(義務教育諸学校等の教育職員の正規の勤務時間をこえる勤務等)

第七条 義務教育諸学校等の教育職員については、正規の勤務時間(職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例(昭和四十二年愛知県条例第四号。以下この項において「勤務時間条例」という。)第三条に規定する勤務時間をいう。この項において同じ。)の割振りを適正に行ない、原則として時間外勤務(正規の勤務時間をこえる勤務をいい、勤務時間条例第八条第三項に規定する日における正規の勤務時間中の勤務を含むものとする。次項において同じ。)は、命じないものとする。

2 義務教育諸学校等の教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、次に掲げる業務に従事する場合で臨時又は緊急にやむを得ない必要があるときに限るものとする。

一 生徒の実習に関する業務

二 学校行事に関する業務

三 教職員会議に関する業務

四 非常災害等やむを得ない場合に必要な業務

3 義務教育諸学校等の教育職員の宿日直勤務については、従前の例によるものとする。

◆職員の給与に関する条例(昭和四二年愛知県条例第三号)

(時間外勤務手当)

第十五条 時間外勤務手当は、正規の勤務時間以外の時間に勤務することを命ぜられた職員に対して、その正規の勤務時間以外の時間に勤務した全時間について支給する。

2 時間外勤務手当の額は、前項の勤務一時間につき、第二十八条に規定する勤務一時間当たりの給与額(初任給調整手当、特殊勤務手当(月額のものに限る。)、特地勤務手当、へき地手当又は農林漁業改良普及手当の支給を受ける職員にあつては、この額に、これらの手当の月額の合計額につき第二十八条の規定の例により計算して得た額を加算した額とする。第十七条第二項及び第十八条第二項において同じ。)に百分の百三十(その勤務が午後十時から翌日の午前五時までの間である場合は、百分の百五十)を乗じて得た額とする。

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